東武鉄道が2025年5月に公開した2024年度決算説明資料において、大師線・亀戸線への自動運転導入計画が注目を集めています。
鉄道業界で進む自動運転化の背景
日本の鉄道各社が自動運転の開発を加速させている最大の理由は、深刻化する人材不足への対応です。
JR東日本の資料によれば、人口減少や働き方改革といった社会環境の変化により、運転士の確保がますます困難になっていくと予測されています。
(そして労働環境の悪い職場鍼書率が高まり、さらに人手不足からの悪循環に陥るという)
この状況は鉄道業界全体に共通しており、地方の鉄道だけでなく都市部を走る鉄道でも運転士不足の懸念が生じています。
参考:HITACHI【図解】信号技術で広がる鉄道の自動運転、自動車との違い
「運転士不足はさらに深刻化するとみられ、鉄道のダイヤを維持するために、自動運転の普及が待たれる」と指摘しています。
おさらい:鉄道自動運転のレベル分類(GoA)とは
で、ここでおさらいです。
鉄道の自動運転は、国際的な基準としてGoA(Grades of Automation)というレベル分けで評価されています。
日本では「0」「1」「2」「2.5」「3」「4」の6段階に分けられています。
鉄道自動運転のレベル分類(GoA)
レベル | 乗務員の有無・形態 | 導入の事例 |
---|---|---|
GoA0 | 運転士(および車掌)が全ての操作を行う | 路面電車など |
GoA1 | 運転士が操作を行う非自動運転 | 踏切道がある一般的な路線 |
GoA2 | 運転士乗務、出発時の安全確認、ドア操作、発車、緊急停止、避難誘導を運転士が実施 | 一部の地下鉄など |
GoA2.5 | 運転士以外の係員が運転台に乗務し緊急停止操作や避難誘導を担当 | 地方鉄道のローカル線など(導入例なし) |
GoA3 | 係員が乗車し緊急時の避難誘導を行うが、運転台への乗務は不要 | 一部のモノレールなど |
GoA4 | 完全自動運転(無人運転)で係員乗務なし | ゆりかもめ、新交通システムなど |
幸いというか、鉄道は「決められた経路で」「減速としてその車両のみが走行できる」という点からも自動運転のハードルは低く、たとえば新交通システムでは既にGoA4まで実現しています。
新交通システムとしては神戸ポートライナーですとか、ゆりかもめとか。
列車自動運転のメリットとデメリット
これからのトレンドである自動運転、どのようなメリットとデメリットがあるのかというと…
メリット
- 安全性の向上:自動運転の導入によりヒューマンエラーを防止できるため、安全性が高まります。
- 運行の効率化:システムが最適な運行を自動的に算出することで、省エネルギー効果が期待できます。
- 人的リソースの最適化:係員は運転業務から乗客サービスに専念できるようになります。
- コスト削減:最適化によるランニングコストや人員削減による経費の軽減が期待できます。
というようなもの。ともかく最適化とコスト削減が大きいわけですね。
デメリット
デメリットは以下のようなものが考えられます。
- 高額な初期投資:駅ホームの安全設備(ホームドアなど)の整備費用。
- 緊急時対応の課題:運転士不在の状況での異常事態への対応をどうするか。
- 技術的課題:障害物検知システムの精度向上や、踏切などへの安全面での対応
あとは鉄道ファン目線としては「運転士としてのやりがい」が無くなる……というのもありえるんではないかな?という気もします。
鉄道の運転士って、競争率も高いでしょうし、簡単に取れるわけではないわけですよね。ですので目指している方、実際に運転士をされている方って自身の仕事に誇りを持ってると思うのです。
免許取得のために難関試験を受けて、研修や訓練を受けて。もちろんすべてが自動運転に取って代わることは無いとは思うのですが、「自動運転」のために職務から外される(それが願ってのことなら良いんでしょうけども)という自体になるのであれば、ちょっと悲しいなーと。
東武鉄道の大師線・亀戸線は
話を戻しまして東武鉄道のこと。
東武が自動運転の導入を進める大師線と亀戸線は、他の鉄道路線と比較して特徴的な性質を持っています。
大師線の特徴
大師線は西新井駅と大師前駅を結ぶわずか1.0kmの短距離路線です。
駅数はわずか2駅のみで、東武線では唯一踏切が存在しない路線という特徴があります。また、終点の大師前駅は東京23区内では珍しい無人駅で、自動改札機や自動券売機もありません。
この特性は自動運転の導入にとって非常に好条件と言えます。踏切がないため、人や物が線路内に侵入するリスクが低減され、運行の安全性確保が比較的容易になるためです。
亀戸線の特徴
そして次に導入の可能性と言われている亀戸線。
こちらは曳舟駅から亀戸駅までを結ぶ3.4kmの路線で、駅数は5駅あります。全線が複線(曳舟駅構内は単線)で2両編成の電車が走行しています。
大師線と比較すると距離は長いものの、やはり比較的短い距離の路線であり、設備や運行体制の更新がしやすいという利点があります。
東武の自動運転導入計画
東武鉄道の決算説明資料によれば、2026~2027年度にかけて大師線向け自動運転対応の新造車両を4編成導入する予定です。
2028年度以降には自動運転(GoA3)の実現を目指しており、今年度には自動運転対応の新造車両設計と、前方障害物検知システムの仮設搭載試験が実施される見込みです。
長期的な展望としては、今回の2つの路線で運用面でのデータを集め、そこから他の線区へ導入していくかどうかを見極めるということなんでしょうね。
新型車両の導入まで行うということは、単なる実験的導入にはとどまら無さそうです。
他社含めた国内外の鉄道自動運転の動向
JR東日本も2024年9月、新幹線へのドライバレス運転導入計画を発表しています。
2028年度に上越新幹線の長岡駅~新潟新幹線車両センター間で自動運転(GoA2)を開始し、2029年度には新潟駅~新潟新幹線車両センター間の回送列車にドライバレス運転(GoA4)を導入する予定です。
さらに2030年代中頃には東京駅~新潟駅間の営業列車にドライバレス運転(GoA3)の導入を目指しています。
まとめ:鉄道自動運転がもたらす社会
東武鉄道の大師線・亀戸線における「自動運転」の導入計画。他社もどんどんと推進しており、ある意味でトレンドとなっているわけです。
良くも悪くも「変わらなかった」鉄道業界が、人口減少や働き方の多様化が進む中で「変わらざるを得ない」ことになっているというのは、それだけ厳しい将来が待っているということ。
自動運転化は単なる効率化ではなく、持続可能な公共交通システムの構築に向けた必然的な進化と言えるでしょうか。
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