パンダ、中国に返還へ
2025年6月28日、和歌山県白浜町の「アドベンチャーワールド」で長年愛され続けてきたジャイアントパンダ4頭が中国に返還されます。 返還されるのは24歳の母パンダ「良浜(らうひん)」と、その娘である「結浜(ゆいひん)」(8歳)、「彩浜(さいひん)」(6歳)、「楓浜(ふうひん)」(4歳)の4頭で、いずれもメスです。

この返還は、1994年から続いた中国とのパンダ保護共同プロジェクトの契約期間が2025年8月で満了となることを受けて決定されました。高齢期に差し掛かった良浜が安心して暮らせる医療体制が整う中国で過ごすことが望ましいという専門家の意見に加え、娘3頭は将来の繁殖を目指したパートナー探しのために中国に返還されます。パンダは暑さに弱いため、猛暑を避けて比較的気温の涼しい6月の返還が選択されました。
この返還により、日本国内でパンダを飼育するのは東京・上野動物園の2頭のみとなり、その2頭も2026年2月に返還期限を迎えることから、日本が半世紀ぶりの「ゼロパンダ」状態になる可能性が高まっています。
地域のシンボルとなった「パンダ」
「白浜といえばパンダ」というくらいで、もはや観光というより地域のシンボル的な存在だったわけです。
関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によると、1994年のパンダ飼育開始からの約31年間で約1256億円の経済効果をもたらし、年平均で40億円超の効果があったことが明らかになっています。人口約2万人の白浜町にとって、年間約6万5000人の集客増加を生み出したパンダの存在は計り知れないものでした。
(きれいな海岸とか温泉もありますけどね)

なお、パンダ愛はJR西も負けてはおらず、特急「パンダくろしお」は、2017年から白浜への観光客を運ぶ重要な役割を果たしてきました。
車両の前面にパンダの顔がデザインされ、車内にも随所にパンダをモチーフとした装飾が施されたこの列車はSNSでもその写真がよく投稿されています。
というかパンダの電車を見れば「白浜か」と思えるくらいに定着してますよね。
JR西日本 287系 「パンダくろしお サステナブルSmileトレイン」
2011年に営業運転を開始した直流特急型電車です。683系をベースに設計されました。2020年7月にはSDGsと次の世代への象徴として3代目のパンダとれいんが登場しました。側面にはアドベンチャーワールドのパンダ、そして人々を繋ぐリボンがデザインされています。
車両だけでなく、白浜駅にはパンダの親子像が設置されていますし、というか「パンダ駅」の表示があるほど。というか街のあちこちにパンダをモチーフにしたモノがあります。
懐かしいものだと105系がピンク&パンダの非常に派手なラッピングだったりとか。
JR西日本 105系 「パンダ列車」2001
国鉄が1981年に製造した地方ローカル線用の通勤型電車です。電動車1両での運転も可能です。2001年11月には白浜アドベンチャーワールドにパンダの「良浜」が生まれたことを記念し、パンダの町白浜のPRのためのラッピング車が登場しました。
路面電車の阪堺電軌もアドベンチャーワールド号があったりして。
阪堺電気軌道 モ701形 「白浜アドベンチャーワールド」2022
阪堺電車が保有する路面電車で、1996~1998年に製造されました。奈良県奈良市に位置する総合学園のラッピング車です。白浜アドベンチャーワールドの広告車で、2022年に登場したデザインです。
パンダ返還後の白浜観光への影響と見通し
経済への深刻な影響
とまぁ、そんな中で「ゼロ・パンダ」となったらどうなるか。
返還の発表後、土産物店ではパンダ関連商品の扱いを徐々に減らしていく方針が示されるなど、地域経済への影響は既に現実のものとなっています。JR白浜駅近くの土産物店「まつや」の店長は「パンダがいなくなったらどうなるのか」と不安を表明しています。

宿泊業界でも先行きへの懸念が広がっており、白浜温泉旅館協同組合は6月24日にパンダ返還後の観光振興策を検討する対策委員会を設置しました。同組合の理事長は「7月、8月の予約がいつもより少ない。危機感としては現実味を帯びてきた」と語っています。

他の観光資源の再評価も
一方で、白浜町には豊富な観光資源が存在することも改めて注目されています。大阪観光大学の細川比呂志教授は、「関西有数の温泉地であるという知名度、きれいな白良浜というビーチ、アクセスの良さという立地のポテンシャルについては、他とは比べられない強みがある」と指摘しています。
白浜町には1350年以上の歴史を持つ白浜温泉(日本三古泉の一つ)、本州一早い海開きで知られる白良浜海水浴場、円月島や三段壁などの絶景スポット、新鮮な海の幸などの魅力が数多く存在します。また、大阪から特急くろしおで約2時間半、東京からは南紀白浜空港への直行便があるというアクセスの良さも大きな強みとなっています。
今後のアドベンチャーワールドは
アドベンチャーワールド自体も「すべての生き物が主役」という方針のもと、パンダ以外の動物の魅力をアピールしています。約120種、1600頭の動物が暮らす同施設では、全国有数の広さを誇るサファリワールド、日本最大級の500羽のペンギン(8種類、国内2か所でしか見られないエンペラーペンギンも含む)、10頭を超えるイルカによるマリンライブなど、多彩な魅力を提供しています。
サファリやペンギンといえば白浜アドベンチャーワールド、と称されるようになるのかもしれませんね。
パンダと観光鉄道の継続的な関係
とはいえやっぱりパンダの存在は大きいわけで、JR西日本は2025年6月26日、パンダ返還後も「パンダくろしお」の運行を継続すると正式に発表しました。この決定は「多くのお客様からご好評いただき、運行継続の励ましのメッセージも多くいただいていることから、長年パンダが届けてくれた楽しい思い出に感謝の気持ちを表し」たものです。

対象となるのは「Smileアドベンチャートレイン」と「サステナブルSmileトレイン」の全3編成で、今後も新大阪から白浜・新宮間を結ぶ特急「くろしお」として運行されます。ただし、「アドベンチャーワールドにパンダがいる」と乗客に誤認されないよう、適切な対応を順次講じていく方針も示されています。
今後は???
白浜町の大江康弘町長は「パンダにすがる気はない」と述べ、パンダ抜きでの観光振興を図る方針を示しています。具体的には、アドベンチャーワールドの年間100万人を除いた「200万人」の観光客をベースに、バスツアーへの補助や南紀白浜空港へのチャーター便誘致などの施策を進める計画です。
対策委員会では、白良浜を使ったスポーツ大会や飲食イベントなど約50の案を検討しており、熱海温泉のような「街歩き」ができる観光地への転換も模索されています。
約30年間にわたってパンダとともに歩んできた白浜町は今、新たな観光戦略の構築という大きな転換点に立っています。パンダが残してくれた「楽しい思い出」を大切にしながら、白浜本来の魅力を活かした持続可能な観光地づくりが求められています。
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